今日のコラムでは結婚や出産や新居への引っ越しなど、人生にとって幸せな出来事のはずなのに辛くなってしまった、落ち込むようになってしまったという方に向けてお話していきます。
幸せなはずのに苦しい
女性にとって(だけではありませんが)結婚や出産と言うのは嬉しいイベントです。大好きな人と結ばれて、晴れて結婚することになり子供も授かった・・・幸せの絶頂ともいえる瞬間です。
それでも、中にはその幸せの絶頂のはずの時期が苦しくて辛くて、落ち込んでしまったという人も実は少なくないのです。ですが、その悩みを感じている方たちの状況は、傍から見たら幸せな状況に見える場面なので(結婚も出産も)、なかなか人に分かってもらいづらいというジレンマが起きやすいのが特徴です。
「幸せななやみね~」と言われたり
「赤ちゃんが生まれたら変わるわよ~」と軽く流されたり
肝心のパートナーからは
「気にし過ぎだって」と言われたり
「俺だってしんどいのに八つ当たりするなよ」と逆に責められたり
今、こんなに苦しいのにその苦しさに共感してもらえない、わかってもらえない・・・。一番分かって欲しい相手にもわかってもらえず、だんだん好きだったパートナーに対しても怒りが止まらなくなってしまい、どうしてこの人と結婚してしまったんだろう・・・、そこまで思い詰めてしまうようなそんなケースもあると聞きます。

その状態が続くとこのような心境になってしまう、というかたもいます。
私はお医者さんではありませんし、専門の資格を持っている訳ではないので治療と言うようなお話はカウンセリングの中では出来ませんが、こうした悩みを持っている方に必ず言う言葉があります。
変化に対応できないのは心が弱いからではありません
それは
ということです。
たとえ、変化が幸せをもたらすものであったとしても、自分で望んで選んだことだったとしても、実際にその変化が自分の身に起きれば心にはストレスが起きるものです。
それは(私の考えではありますが)、結婚も妊娠も引っ越しも転職も、行動する前にその先を完璧に予想することなど出来ませんし、実際に体験してみないとその大変さはわからない種類のものだからだと思っています。
結婚も妊娠も出産も子育ても、すべて未知との遭遇です。未体験と未経験の連続です。結婚するまでは恋人同士として仲良く出来た相手であっても、24時間一緒に暮らすようになれば知らなかった一面を見ることもあるでしょうし、例えば赤ちゃんがお腹に出来れば、否応なく女の人の身体にも環境にも大きな変化が起きるのは事実です。
今までフルタイムで働いていた女の子も妊娠すればそのままの働き方は難しくなる場合もあるでしょうし、今までは家事も仕事も何でも思う存分出来ていても、お腹に赤ちゃんが出来たということで身体がだるくなって、つわりが起きて、思うように身体が動かなくなる・・・そんなことも起きるでしょう。
今までは好きな時に友達にあって遊びに行けたのに、そうしたことも出来なくなる・・・。幸せな変化の中で次々に自分の身体や環境の中に起きてくる変化の波の中で「どうして自分にだけ・・・」 一時的にそんな気持ちになるのは仕方がない事だと私は思っています。
ひとは本質的には変化を好まないものです。
昨日までと同じ日々が続くこと、日常が変わらないこと、変わらない日常を送れること、それを安心安全だと感じる脳の仕組みがあるからです。これを時間の永続性と言ったりもしますが、過去にこの時間の永続性が壊れるような体験をした人にとっては、変化のストレスは普通の人よりも大きなものになりがちです。
変わるということが、ただそれだけでもストレスになるのです。
だから、環境の変化に対応できないことに苦しんでいる方は、それは自分の心が弱いせいではなく、変化に対する適応力を育てられていないということなのだという風に理解してあげることが最初に必要です。
変化がストレスになる心理的理由
先ほども書きましたが、そもそも人は変化を好まない性質があります。
それには簡単に以下のような理由があると言われています。
①「現状維持」が安心だから
人の脳は「いつも通り」に安心を感じます。いつも通りと言うのは、いつものやり方に安心しているということ。
だからたとえ今がつらくても、慣れている状況の方が安心だと感じる心の動きが生まれるのです。
②変化には「不確実さ」がある
未来が見えないことは脳にとってストレスです。それは、脳の仕組みとして、「予測できない=危険」と反応するようにできているからだと言われています。これは原始的な防衛反応で、私たちが生き延びるために備わっているもの。
だから、変化の前には「うまくいくかわからない」「失敗するかも」という不安がつきものなのです。
③エネルギーが必要だから
新しいことを始めるには、考える・覚える・動くエネルギーが必要です。実は、脳にはできるだけエネルギーを節約しようとする仕組みがあると言われます。だからこそ「いつも通り」「何もしない」ほうがラクだと感じやすいのです。
鬱の時に細かいことを考えられなくなったり、行動出来なくなるのは、鬱の時には生存を最優先にしているので、エネルギーを極力省エネモードにしています。そのため考えたり動いたりする能力を抑えてしまうからだと言われています。
④過去の傷や経験が邪魔することも
「昔、変わろうとして失敗した」「裏切られた」という記憶があると、また傷つくのが怖くて変化を避けることがあります。「新しい環境は怖い」「慣れたところにいた方が安全」と思い込んでしまうような出来事があったり、変化の中で怖い思いをしても誰にも助けてもらえなかった経験等がある場合もあります。
変化という怖い(つらい)体験をした時に、その変化をサポートしてくれる存在がいたかどうかによって、その後のその人の変化に対する受け止め方は変わります。新しいことをして失敗するのは怖いな、でも何かあったら助けてもらえると思っていれば、変化の怖さを乗り越える勇気も持てるかもしれませんが、新しいことをするのはただでさえ怖いのに、失敗したらさらに見捨てられたりしたら・・・それなら何もしない方が安全と変化を避けるようになることは想像しやすいかと思います。

結婚や妊娠など人生の変化の中で苦しさを感じている人に必要なこと
では、結婚や妊娠、出産などの幸せなはずの人生の変化の中で苦しくなってしまっている人達に、何が必要なのでしょうか。
それにはまず自分の心がSOSをあげているということを認めることです。幸せなはずなのにしんどくなるなんておかしい・・・ではないのです。
適応障害になりやすい人は頑張り屋さんに多いとも言われていますが、それは多分ですが、環境の変化に適応できないことを責めてしまうことが多いからなのです(注:喜多村調べではありますが)
子供の頃から環境の変化に頑張って適応して、良い子でまわりの期待に応えて、努力してちゃんと頑張ってきた・・・そういう人が自分のキャパを超えるような大きな環境の変化を経験し、その変化に適応できないことで起きてしまう、そういう病気なのかなと私は思っています。
だからこそ、そういう人に大事なことは
①「自分が弱いから」ではないと知る → 適応障害は「心がんばりすぎたサイン」
②小さな安心を取り戻す → 生活の中に「変わらないもの」や「ホッとできる時間」を意識して作る
例:同じカフェに行ったり、お気に入りの音楽を聴いたり、変わらない好きなものと触れる時間を作る
③信頼できる人に話す → 無理に元気にふるまわなくてOKです。
「つらい」「しんどい」と言える場所をつくること。それだけでも心は回復に向かいます。同じ気持ちを話せるような場所で気持ちを話すのも良いでしょう。心理カウンセラーや医療機関に相談すのもとても良い選択肢ですよ。
④自分の感情に寄り添う時間を作る → 「不安なんだね」「頑張りすぎて疲れたんだね」と、気持ちを受け止めてあげることもおすすめです。出来る気力がある時はノートなどに書き出しするのもお勧めです。
⑤少しずつ「慣れていく」時間を大切にする → 急に変わろうとしないこと。環境の変化に疲れてしまった心を焦らせてしまうと、余計にストレスをかけることになり逆効果です。大きな目標を立てるのではなく「今日はこれだけできた」「今日は怒らずに話せた」と小さくてもできたことに目を向けて〇を付ける習慣を心がけましょう。
解決していくために
結婚や妊娠、出産という幸せな変化の中で辛くなってしまう、幸せなはずなのにどうして・・・と、自分をわがままだと思ったり、欲張りだと思ったり、自分をダメだと責めてしまうひともいるかもしれません。
でも、それはあなたの心の弱さや、あなたの性格の問題で起きていることではないということを心にしっかり残すこと、それを忘れないでほしいなと思います。
そして結婚や妊娠と言う状況には当然ですがパートナーが存在します。そのパートナーの方に自分の状況を理解してもらうことは実はとても重要です。
今、自分は心のストレスでいつもの自分ではなくなってしまっていること。回復には時間がかかるし、焦る事は良くないらしいこと。でも、回復に向けてゆっくり歩もうと思っていること。鬱や適応障害の回復には、パートナーや家族(周りの人たち)の理解とサポートは欠かせません。
ただ、パートナーの人にもその人の悩みや生活もあり、回復を応援していても自分ではどうしていいかわからないと思う場合もあるかもしれません。そういう意味では、適応障害や鬱になってしまった方の回復においては、当事者が回復のサポートをうけることはもちろん大事なことですが、側にいる家族やパートナーの方も同じようにサポートを受けることが望ましいともいえるでしょう。
私は出産後に鬱も経験していますし、ワンオペでの子育ても経験しています。幸せなはずなのに苦しいと感じている方のお気持ちは少なからず想像できます。安心してご相談くださいね。